トリコモナス感染症は他の性感染症と違い、若年層だけでなく、中高年層にも広がっている性感染症です。
さらに性行為の経験がない人も感染したり、他の感染症と症状が似ていて見分けるのが難しかったりするのが、トリコモナス感染症の特徴です。
しかし、感染に気づかずに放置してしまうと感染の拡大だけでなく、不妊症や子宮外妊娠を引き起こします。
- トリコモナス感染症は原虫による性感染症
- 原虫の生息には水分が必要
- おりものの変化
- 上行感染による炎症の拡大
- 類似疾患
- 検査と診断
- 内服による治療
- 感染予防
トリコモナス感染症は治療をすると完治はしますが、子宮外妊娠や感染を繰り返す可能性があるため疾患についての正しい知識を得て、感染予防をするのが大切です。
トリコモナス感染症は原虫が性器内に侵入して起こる性感染症である

トリコモナス感染症とは、トリコモナス•バギナリスという長径10〜25μm程度の原虫が性器内に侵入して起こる性感染症のことです。
湿度と栄養が保たれている膣内は原虫の生存に適した場所であるため、急速に増殖し、放置すると症状が悪化します。
トリコモナス•バギナリスの主な感染部位は、以下のとおりです。
- 膣
- 子宮頸部
- 下部尿路
性行為からの感染がほとんどですが、稀にタオルや浴槽などから感染する場合があり、性経験のない人も感染します。
これは、トリコモナス•バギナリスは水の中では数時間生息でき、浴槽などにも原虫が生存している可能性があるためです。
原虫は乾燥や熱に弱く、タオルや湯船では感染のリスクは少ないものの、水風呂の使用や家族が感染している場合は警戒する必要があります。
感染している家族が使用したタオルや浴槽、お風呂の椅子などについた原虫が性器に触れた場合、感染する危険性が高まります。
そのため、性経験のない幼児にもうつるなど家族間の感染拡大がおこるでしょう。
女性の性器は原虫にとって繁殖に適した場所である
トリコモナス感染症は、男性よりも女性の方が症状が強く現れます。
これは、常に湿った状態の膣がトリコモナス•バギナリスの生息に必要な条件を満たしており、増殖に適した環境だからです。
通常、膣内には善玉菌である乳酸桿菌が存在し、これが上皮細胞内にあるグリコーゲンを乳酸に代謝して膣内を酸性に保ちます。
これはトリコモナス•バギナリスがグリコーゲンを栄養源としており、膣内のグリコーゲンが原虫によって減った結果、乳酸桿菌が減少するためです。
その結果、おりものに異常がでたり、炎症を引き起こしたりします。
膣炎がある人は自浄作用の低下により他の感染症にも容易に感染する

トリコモナス感染症と似た疾患に、膣内に炎症を引き起こす細菌性膣炎があります。
これはホルモンバランスの乱れやストレスなどで免疫力が低下した際に、善玉菌が減少して膣内に雑菌が繁殖するため、おりものの量が増えたり匂いを発生させたりします。
トリコモナス•バギナリスが原因ではないため、性感染症には分類されませんが、細菌性膣炎は膣内の自浄作用が弱まっている状態です。
膣内が容易に感染する状態となり、トリコモナス感染症以外にも他の感染症にかかる危険性が高まります。
そのため、治療によって膣内の善玉菌を増やし、膣内環境を酸性に保つのが重要です。
膣炎は原因菌によっても症状や治療法が異なり、いずれも放置すると卵管炎や子宮頸管炎を引き起こし、不妊症や子宮外妊娠につながります。
トリコモナス感染症の症状はおりものに変化があらわれる
トリコモナス感染症は、男性よりも女性の方が症状がより強く現れますが、感染者のうち約20〜50%の人は症状が出ません。
そのため感染初期は気づかない場合がありますが治療をしないと完治はせず、放置すると炎症が進み、不妊症など重症化する危険性が高まります。
10日間〜6ヶ月の潜伏期間を経過したのち、約3割の人は感染後半年以内におりものの異常などトリコモナス感染症の症状が現れます。
健康な人のおりものは透明または乳白色であり、ほとんど匂いがなく、サラサラしているか少し粘り気があります。
しかしトリコモナス感染症にかかると女性は、おりものの量が増えて泡状の黄緑色になり、腐敗臭を伴います。
このおりものの変化は、トリコモナス•バギナリスによって膣内が酸性からアルカリ性に傾いた結果、臭いの原因となる嫌気性菌や大腸菌が膣内で増殖するためです。
感染部位の細胞が原虫によって死滅させられるため炎症や痛みを生じる

トリコモナス感染症は、トリコモナス•バギナリスが膣の表面にある上皮細胞にくっついて感染が成立しますが、くっついた後その上皮細胞は死滅します。
上皮細胞が死滅すると、免疫細胞が働き、炎症を起こして異物を排除しようとします。
その結果、免疫反応により膣など感染部位に炎症が生じて痛みや痒み、点状出血斑などの症状が現れるのです。
炎症が重症化すると、強い痒みや灼熱感を感じる場合があり、掻きむしってしまうと傷がついて腫れる可能性があります。
さらに原虫が尿路に寄生すると、尿道に炎症を起こして、排尿痛や灼熱感を感じるなど膀胱炎のような症状を呈します。
膣や尿路に強い痛みを感じる場合は、炎症が進行している可能性もあるため、早期に医療機関を受診して重症化を防ぎましょう。
原虫は症状がなくても増殖しているため炎症を拡大させている
トリコモナス感染症は、潜伏期間が10日間〜6ヶ月です。
感染しても、原虫の数や免疫力の影響で無症状の場合も少なくありませんが、その間にも原虫は増殖しています。
悪化すると、原虫や微生物が膣から子宮頸部などに上行感染して、子宮や卵管に炎症を引き起こします。
子宮頸管炎だけでは症状が現れない場合が多いですが、進行すると下腹部痛や不正出血などの症状が現れるでしょう。
通常、受精卵は少しずつ大きくなりながら卵管を通って子宮内腔に着床して、妊娠が成立します。
しかし卵管に炎症が起こっている場合は、卵管が傷ついていたり閉塞していたりするなどの理由から受精卵の通過が妨げられて、子宮へたどり着けません。
その結果、卵管妊娠の危険性が高まったり、不妊症に繋がったりします。
加えて妊娠中にトリコモナス感染症にかかると、炎症が子宮内に広がり、子宮収縮が促進されて早産や流産につながる危険性があります。
原虫が直接胎児に影響を及ぼす可能性は低いですが、感染によって低出生体重で産まれる危険もあり、炎症が進行する前に早期に治療を開始するのが大切です。
症状が類似した感染症があるため自己判断で対応するのは危険である

トリコモナス感染症以外にも、おりものの性状や量の変化、性器の痒みなどの症状を呈する疾患があります。
そのため、トリコモナス感染症を他の疾患と勘違いして市販の治療薬を使用すると、重症化につながります。
症状からカンジダであると思い込み、自己判断で市販薬を使用してもトリコモナス感染症は改善しません。
トリコモナス感染症と類似した症状を呈する疾患には、カンジダとクラミジアがあります。
病名 | 原因菌 | 症状 | その他の特徴 |
---|---|---|---|
トリコモナス感染症 | トリコモナス•バギナリスという原虫 | 泡状黄緑色のおりもの悪臭性器の痛みや痒み、かぶれ | 性感染症 |
カンジダ | カンジダ菌という真菌 | 酒粕状あるいはカッテージチーズ状の白いおりもの多量性器の痒みや灼熱感 | 免疫力の低下が原因性感染症ではない |
クラミジア | クラミジア•トラコマチスという細菌 | 粘り気のある白いおりもの性器の軽い痒みや痛み | 性感染症 |
このように症状が似ていて区別するのは非常に難しく、症状が軽度の場合も多いため、おりものに異常を感じた時は自己判断せずに医療機関を受診するのが望ましいです。
診断では膣分泌物を採取し活動している原虫を顕微鏡で確認する

おりものに異常を感じて医療機関を受診した場合、症状や経過について詳しい問診が行われます。
問診時には以下のような項目を聞かれるため、事前に答えられるように準備して受診するのが大切です。
- 症状の有無や程度
- 発症時期
- 性的接触の履歴
- 避妊方法
- 妊娠の可能性
- パートナーの有無
- 過去の性感染症治療歴
- 既往歴
- アレルギーの有無
- 使用中の薬剤
問診の後に医師による内診が行われ、膣内や子宮頸部に炎症がないか、おりものの状態が正常かどうかの確認がされます。
内診では半数以上の人におりものの変化が認められ、さらに膣の発赤は75%、コルポスコープと呼ばれる拡大鏡を用いた検査では90%の人に苺状の子宮腟部が見られます。
内診時には、細い綿棒を用いて膣分泌物の拭い取り検査が行われるでしょう。
採取した検体を顕微鏡で調べて、その中に活発に動いているトリコモナス•バギナリスの存在が確認された場合は、トリコモナス感染症と診断されます。
この検査は、感染から24時間経過すると行えて痛みも伴いませんが、原虫を見落としてしまう可能性があるのが欠点です。
原虫の数が少なく、結果がはっきり分からない場合は、培養検査や核酸増幅検査が行われます。
これらは顕微鏡で原虫を確認するよりも時間はかかりますが、検出率が高いため、正確な診断ができます。
治療は尿路への感染も踏まえ抗原虫薬の内服が第一選択である

トリコモナス感染症の治療は内服薬と膣錠の2種類あり、尿路への感染も踏まえて、一般的には抗原虫薬であるメトロニダゾールの内服治療が行われます。
治療期間は10日ほどで、このメトロニダゾール内服中にアルコールを摂取した場合は、以下のような強い副作用が出現する可能性があります。
- 口の中が金属の味がする
- 白血球減少
- 悪心
- 嘔吐
- 腹痛
- 動悸
- 食欲不振
- めまい
- 頭痛
メトロニダゾール内服中と内服終了後3日間は飲酒を避ける必要があり、強い副作用が出現しても自己判断で休薬せず、医師の指示に従いましょう。
内服治療によって症状が改善し、検査を行っても原虫が発見されない場合、完治と判断されます。
女性は生理によって残存していた原虫が増殖する可能性があり、次回の生理後に原虫が消失したかの検査を受けるのが望ましいです。
再発予防にはパートナーと共に治療を受けるのが効果的である
トリコモナス感染症にかかった場合、パートナーも検査を行い、一緒に治療を行う必要があります。
そのため、すでに感染している可能性があり、一緒に治療を行わないと感染を繰り返してしまいます。
感染が確認された場合は、医師が完治と判断するまでは性行為を控え、再感染の予防に努めましょう。
自覚症状が消失しても原虫はまだ体内にいる可能性があるため、原虫が完全に排除されたのを確認するまでは治療を継続するのが大切です。
感染予防にはコンドームを使用しタオルを共用しないのが大切である
感染予防には、性行為の際にコンドームを使用すると効果的です。
コンドームの使用で感染を完全に予防するのは難しいものの、性器の直接的な接触を防ぐなどの効果は十分あります。
しかし、使用方法を間違えたり破れたりすると感染する危険性は高まるため、正しく使用してください。
さらに生理中は膣内がアルカリ性に傾き、免疫力が低下して容易に感染する状態なため、生理中の性行為も避けるのが望ましいです。
性行為以外にもトリコモナス•バギナリスは、湿った場所で長時間生息でき、濡れたタオルやお風呂で感染する危険性もあります。
そのため、タオルの共用を控え、公衆浴場では性器が直接椅子や浴槽などに当たらないようにして感染予防をしましょう。
女性は全年代で感染する可能性があるため予防が重要である

トリコモナス感染症は、若年層から中高年層まで幅広い年代に見られる性感染症です。
さらに、無症状で経過する場合や性交渉における感染リスクに対する認識の甘さなどから、感染を拡大させてしまう可能性があるでしょう。
一方妊娠中は胎児を異物とみなさないように母体の免疫力が低下するため、トリコモナスや他の感染症に容易にかかる状態になります。
妊娠中にトリコモナス感染症にかかると、原虫が子宮に入り込み胎児を包んでいる卵膜に炎症を起こして絨毛膜羊膜炎となり、早産や流産を引き起こす危険性が高まります。
妊娠3ヶ月以降は内服による治療の効果が危険性よりも上回ると判断されると、内服薬で治療を行う場合もあります。
中高年になると女性ホルモンであるエストロゲンの減少により、膣内の乳酸桿菌が減少してアルカリ性に傾き、トリコモナス感染症や他の細菌にも容易に感染する状態になります。
近年では中高年層でも性行為の機会が増えており、膣内環境の変化も影響して、感染のリスクが高いです。
このように、どのライフステージでも感染するリスクがあるため、全年代で感染予防に努める必要があります。
トリコモナス感染症に関する治療や感染リスクについての質問
Q.トリコモナスは自然に治る事例がある?
A.トリコモナス感染症は、自然に治らないため、医師の診察と治療が必要です。
一般的には10日間の内服治療を行った後、検査で原虫が見つからない場合に治癒したと判断されます。
Q.女性同士の接触で感染する場合はある?
A.女性同士でも、感染する危険性はあります。
トリコモナス•バギナリスは湿った環境で長時間生存できるため、感染者との共用タオルの使用や風呂の椅子などに性器が直接触れた場合、感染する可能性があります。
性行為以外でも感染するため、一緒に入浴したり風呂の椅子やタオルを共用したりすると女性同士でも感染します。
Q.トリコモナス感染中に生理がくるとどうなる?
A.生理中は経血によって膣内がアルカリ性に傾くため、免疫力が低下し、症状が悪化する可能性があります。
そのため、生理中の性行為は控えるのが望ましいです。
女性が感染に気づくには病気についての正しい知識が必要である

トリコモナス感染症の症状はおりものの匂いや性状に特徴があり、20〜50%の人は無症状で、感染の事実に気づきません。
しかし、感染に気づかずに放置すると炎症が進行し、不妊症や子宮外妊娠を引き起こす可能性があります。
一方、トリコモナス感染症に似た症状を呈する疾患は他にもあり、市販薬では治らないため自己判断で対応するのは好ましくないです。
そのため、感染の危険がある行為をした場合やおりものに変化があった際は、医療機関を受診して検査を受けてください。
感染が確認された場合は、パートナーと一緒に検査を受けましょう。
とくに男性は女性よりも症状が軽い場合が多く、すでに感染している可能性があり、一方が完治してもパートナーが感染していると再感染します。
トリコモナス感染症はあらゆる年代で起こり得る疾患で、不妊症や再感染の危険性があるため、正しい知識を持って適切に対処する必要があります。